切り花として流通する蘭の花12選。デンファレ、オンシジューム、シンビジュームなど

濃いピンクの胡蝶蘭

蘭といえば「鉢物の胡蝶蘭」のイメージが強いかと思いますが、日持ちの良い品種が多いこともあり、切り花としても多くの蘭が流通しています。特に花の種類が少なくなる夏場には、生花店の現場では長持ちする切り花としてデンファレやオンシジュームなどが重宝されています。

また、花の姿も個性的なので、品種によってはエキゾチックな印象を与え、アレンジメントや花束のアクセントとしても使用されるのが、切り花の蘭なのです。

今回は、切り花として使用される蘭にフォーカスしてご紹介します。

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。

切り花の蘭(初級編)

初級編は、目や耳にすることも多い、一般的に広く知られている切り花の蘭として4種類をご紹介します。これらの蘭は、多くの一般の生花店で入手可能な品物で、国内の切り花の蘭の流通量の9割を占めると言えそうです。

1.デンファレ

淡いピンクのデンファレ

原産:インドネシア
流通期:通年

一般の生花店で最も登場する頻度が高い切り花の蘭といえば、デンファレかもしれません。白やピンクの花を細い茎に連なるように咲かせるデンファレは、国産・輸入物ともに安定的に入荷があり、日持ちも良いので、アレンジメントに頻繁に使用されます。ハワイの「レイ」の素材としても有名ですね。

正式名称の「デンドロビウム・ファレノプシス」を略して「デンファレ」です。「デンドロビウム」の名で呼ばれる茎の太い「デンドロビウム・ノビル」とは系統が異なります。

2.オンシジューム

黄色いオンシジューム

原産:中南米
流通期:通年

イエローの小さい花を長い茎にたくさんつけるオンシジュームは、誰もが一度は見たことのある蘭ではないでしょうか。夏場でも非常に日持ちがよく、ボリュームも出せるポピュラーな蘭です。

花弁の先から中央まで全て黄色の「ハニーエンジェル」や「太陽の子」などの品種が一般的ですが、茶色に近い「シェーリーベイビー」や、より花の小さい「オブリザタム」など、盛んに品種改良が進められた結果、オンシジュームの品種数は1000種以上あると言われています。

3.シンビジューム

紫のシンビジューム

原産:東南アジア・インド・日本など世界各地
流通期:通年

一本の茎にたくさんの大きな花をつける花姿はとても高貴で、日持ちも良く、青山花茂ではアレンジメントに使用しています。ただ、どうしても単価が高くなるので、切り花のシンビジュームを取り扱う生花店は限られます。国産の切り花は冬から春までの短い期間、残りの期間は輸入品です。

ちなみに、日本原産のシンビジュームの仲間として「春蘭(シュンラン)」という品種もあります。詳しくは以下のブログで取り上げています。

参照:シンビジュームが冬に咲くのはなぜ?お手入れや置き場所などもご紹介します

4.胡蝶蘭(ファレノプシス)

濃いピンクの胡蝶蘭

原産:東南アジア
流通期:通年

言わずと知れた胡蝶蘭(ファレノプシス)。東南アジア原産の着生蘭(空気中から水分をとって生きる)です。鉢物の胡蝶蘭のイメージが強いですが、切り花にしたあとも比較的日持ちは良いので、アレンジメントや花束で使われます。特に大輪の胡蝶蘭は、大きなアレンジメントやスタンド花などを豪華にする役割で使われます。国内の胡蝶蘭生産者さんから年間通して入手が可能です。

切り花の蘭(中級編)

中級編は、一般の方でも見たことや聞いたことがある(と思われる)、比較的身近な4種類の切り花の蘭をご紹介します。これらは、名前を知らずとも、お花を贈ったり贈られたりする方なら、見かけたことのある品種かと思います。

5.バンダ

紫のバンダ

原産:東南アジア
流通期:通年

蘭の中では比較的大きな花をつける、とても存在感のある蘭です。ヒスイランの別名を持つ通り、紫の単色のものが多く流通しているように思いますが、ビビッドなピンクやオレンジのもの、複色のものなど品種は多様です。

古くからいけばなでは頻繁に使われ、現在はアレンジメントのアクセントとしても使用されるバンダ。切り花にすると日持ちが少し劣るので、根がついたままアレンジするシーンも見られます。国産・輸入ともに入手可能ですが、一般の生花店ではオーダーがないと入荷しにくい花かもしれません。

6.アランダおよび 7.モカラ

黄色いモカラ
モカラ

原産:なし(交配種)
流通期:通年

アランダはバンダ×アラクニスの交配種。モカラはバンダ×アラクニス×アスコセントラムの交配種です。アランダやモカラは主に輸入もので、市場では常に見かけるポピュラーな品種です。

オレンジ・イエロー・赤・ピンクなど鮮やかな色が多く、一本の茎に連なるように5センチ程度の小さな花をつける外見は、アランダもモカラも非常に似ていて見分けは難しいかもしれません。切り花の蘭の中では安価で取り扱いやすい蘭であり、流通量は比較的多い印象です。

8.カトレア

ピンクのカトレア

原産:中南米
流通期:通年

大輪のものから、ミニカトレアと呼ばれる小輪のものまで多様に品種改良がされ、かつては蘭の女王のように扱われていたカトレアも、近年では胡蝶蘭にその座を奪われた印象です。

現在ではカトレアの鉢はもちろんのこと、コサージュなどで使われていた切り花のカトレアも入荷の機会が激減しました。香りや優美さは他の蘭に負けないのですが、やはり日持ちの点で他の蘭に劣るので仕方ないことですね。

切り花の蘭(上級編)

最後に切り花の蘭の上級編。花を趣味や仕事にしている人であれば知っている方も多い4種ですが、切り花として一般の生花店に並ぶことは稀な品種です。

9.パフィオ

淡い緑のパフィオ

原産:東南アジア・インドなど
流通期:11月〜1月

パフィオの通称で呼ばれますが、正しくはパフィオペディラム。茎は数十センチと短く、蘭らしい独特の形状をした花を1輪〜数輪咲かせます。特徴的な形状から「レディースリッパ」という異名も。色は清涼感のある白グリーンやシックな茶色のものが主に流通しています。

鉢物の生産が主流ですが、切り花としても流通しておりアレンジメントのアクセントとして主に使われています。花の存在感があるので、一輪挿しでも楽しめます。

10.エピデンドラム

ピンクのエピデンドラム

原産:中南米
流通期:5〜6月

まっすぐ伸びた細い茎の最上部に、数センチの小さい花が丸く集まって咲く蘭です。数百種類あるとされる原種は必ずしも丸く集まって咲くものばかりではないようですが、流通している品種の大半が「リードステムタイプ」と呼ばれるグループなので、エピデンドラムといえば丸く咲くものとして知られています。

輸入物よりは、国産の品物が多く入荷している印象があります。いけばなの世界ではポピュラーですが、個性的すぎるせいか、切り花としてフラワーアレンジで登場することはさほど多くありません。

11.レナンセラ

レナンセラとアランセラ
左:レナンセラ 右:アランセラ

原産:東南アジア
流通期:5〜6月/10〜11月

細長い特徴的な花弁を持つ花を、長い茎にたくさんつける蘭。深い赤やオレンジなど、濃い色彩のものが多いエキゾチックな蘭です。花のサイズ感やつき方はアランダやモカラに似ていますが、オンシジュームのように茎が長く花弁が細いので、慣れれば一目で見分けがつきます。

また、アラクニスとレナンセラを交配させたアランセラという品種も流通しており、外見はレナンセラと酷似しています。レナンセラは日持ちも良く、切り花は大半が輸入ものです。

12.エンシクリア

ピンクのエンシクリア

原産:中南米など
流通期:6月

直線的な細長い花弁を持ち、他の蘭にはないピンクや黄緑の淡い色の品種が多いエンシクリア。バニラのような香りも特徴です。オンシジュームの一種と混同している方もいますが、全く異なるようです。国内の生産が始まったのが比較的最近であることと、入手できる期間が短いこともあって、一般にはあまり知られていない蘭かもしれません。

切り花の蘭を使った装花

持ちのよい切り花の蘭は、フラワーギフトだけではなく装花でも活躍します。ここでは、いくつかのお届け事例をご紹介します。

オンシジュームとデンファレのアレンジメント

オンシジュームのアレンジメント

黄色と濃いピンクのオンシジュームに、白いデンファレを合わせたエントランス装花。伸びやかなオンシジュームの姿を活かしたシルエットが豪華な印象です。

白い大輪胡蝶蘭を使った祭壇

胡蝶蘭の祭壇

切り花の胡蝶蘭を中心に、淡いグリーンのハイドランジアやマムなどの花を合わせた祭壇。胡蝶蘭が多く入ることで、格調高い印象に仕上げることができます。

エンシクリアのイベント装花

エンシクリアの花瓶活け

グリーンにワンポイントとして淡いピンクのエンシクリアを束ねたイベント装花。蘭の花は日持ちする品種が多いので、長めの展示にも耐えることができます。

青山花茂ではオフィスやショップ、斎場、個人さまのご自宅などへの装花のご依頼も承っています。出張もしくはお電話でのカウンセリングを実施し、最適な花々をコーディネートします。

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夏におすすめの切り花の蘭をお楽しみください。

今回は、青山花茂に入荷することのある切り花の蘭をご紹介しました。この他にも、洋ランとしてはオドントグロッサム、グラマトフィラム、ミルトニア、アスコセンダなどもありますが、それら品種は切り花として入荷することはほぼないので、今回ご紹介した12品種で「切り花の蘭」は、ほぼカバーできたかと思います。

シンビジュームのご紹介のところで少し触れたように、日本原産の蘭も存在します。紫蘭(シラン)、海老根(エビネ)、石斛(セッコク)、春蘭(シュンラン)、寒蘭(カンラン)、朱子蘭(シュスラン)、熊谷草(クマガイソウ)など、実は日本の野山にも蘭が自生しています。そちらのご紹介は、また別の機会にできればと思います。

暑い夏でも比較的日持ちのよい切り花の蘭。今年の夏は、意外と選択肢の多い切り花の蘭を楽しんでみてはいかがでしょうか。

 

この記事を書いた人

青山花茂本店代表取締役社長北野雅史

株式会社青山花茂本店 代表取締役社長

北野雅史

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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