初夏の風物詩・アジサイの歴史や種類。日本に自生するアジサイと西洋アジサイの違いとは?

生花店ではピンクやグリーンのアジサイを見かけるけど、街で見かける植えられたアジサイは多くが青色なことに、気づいていましたか?アジサイは土壌の酸性度によって花色を変える不思議な植物。

今回は、初夏の花・アジサイの歴史や種類、魅力についてご紹介していきたいと思います。

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。

身近だけど奥深いアジサイの歴史

梅雨時に、アジサイの玉のような花と大きな葉が雨に濡れた情景は、誰の記憶にも残っていますよね。

日本中どこにも見られ、関東では5月末から6月の梅雨にかけて開花するアジサイ。

万葉集にも歌われるほど、雨とのセットでさまざまなシーンで描写されてきた、この季節を代表するとてもポピュラーな植物です。

青いホンアジサイ
手まり咲きのホンアジサイ

花に見えるのは厳密には「ガク」が発達した部分

私たちが街で最もよく見かける植えられたアジサイ(ホンアジサイ)は丸い形をしていますが、厳密には、「花」は丸い形の真ん中に小さく開花し、丸いシルエットの「花序」の大半の部分は、萼(ガク)が花弁状に大きく発達した「装飾花」です。

この丸みを帯びた形状を「手まり咲き」と呼び、 ガクアジサイの「ガク咲き」や、ノリウツギなどの「ピラミッド咲き」と区別されています。

紫のガクアジサイ
装飾花が花の周囲に広がるガクアジサイ

アジサイは日本原産の植物

日本原産のヤマユリが欧州に持ち帰られてオリエンタル百合が生まれたのと同じように、アジサイもドイツ人医師シーボルトなどが手まり咲きのホンアジサイを持ち帰って品種改良が盛んに行われ、多様な品種を持つ「西洋アジサイ」として日本に逆輸入されています。

野生のホンアジサイは発見されておらず、現在でも関東を中心に山野に自生しているガクアジサイ(ガク咲き)が手まり咲きのホンアジサイの原種と考えられていますが、ホンアジサイはシーボルトが欧州に持ち帰った18世紀後半に既に国内に園芸種として広まっており、どのタイミングで原種のガクアジサイから園芸種のホンアジサイに変化したかは不明です。

ちなみに、ホンアジサイを持ち帰ったシーボルトは、「Hydrangea otaksa」(ハイドランジア オタクサ)の学名を付けました。シーボルトは日本滞在中、楠本瀧(お滝さん)という女性を愛し、子を残しており、この「otaksa」は、「おたきさん」を指しているとの解釈が一般的です。 尚、 “otaksa”については、同品種が登録済であったことが後に発覚し、 現在では「Hydrangea macrophylla (Thunberg) Seringe」が学名となっています。

土壌の酸性度によって花色が変わるアジサイ

アジサイは酸性の土では青みが強くなり、アルカリ性の土では赤みが強くなることが知られています。土壌が酸性だと、土中のアルミニウムが溶け出し、花に多くアルミニウムが含まれるため青色の花となるようです。

なお、アジサイは「集真藍(あづさあい)」=「藍色が集まる」が名称の由来とされていて、植物の名称が決まった頃、国内には青のアジサイしか(ほぼ)無かったことが推定されます。 私たちが街で見かける、植えられているアジサイも、ほとんどが青色をしているはずです。その理由は、日本の土壌のほとんどが酸性であるからです。実際にヨーロッパに行って見たことはありませんが、土壌がアルカリ性のヨーロッパのアジサイは赤色が多いそうです。

水色と紫のアジサイ
酸性なら青色、アルカリ性なら赤色になる性質があります

アジサイの色は土によって変わりますが、開花の途中で色を変化させていくのもこの植物の特徴ですので、「土壌が酸性だから常に青」というわけでもないことに注意が必要です。

日本原産のアジサイの仲間

アジサイといえば、手まり咲きのアジサイをイメージしますが、アジサイ科アジサイ属は約30種あり、日本原産のものは12種あるとされ、いろいろな品種があります。

日本原産のアジサイ属の品種のうち、野山や生花店でよく見かける、アジサイ好きなら知っておきたい花を中心にご紹介します。

ホンアジサイ

紫のホンアジサイ

国内でさまざまな場所に植えられている、最もポピュラーなアジサイ。花序のほとんどが装飾花からなり、形状は手まり咲きとなります。18世紀後半に欧州に渡り、品種改良を経て、より大輪で色のバラエティに富んだ西洋アジサイとして逆輸入されました。原種のガクアジサイから自然に変化した園芸品種と推定されています。切り花として流通しているアジサイのうち、国産のものは大半がこの品種です。

ガクアジサイ

青いガクアジサイ関東・中部地方の海岸地域に自生するため、ハマアジサイという別名もあります。中央につぶつぶの小さな花を集合させ、周囲を装飾花が取り囲んでいます。装飾花の色は白と青が多いですが、淡いピンクもあります。ガクアジサイはホンアジサイの原種とされ、西洋アジサイも含めた現在流通している栽培品種のアジサイの始祖と言えます。ガクアジサイが切り花で流通することは少ないですが、ガク咲きの形状を残した鉢物は多く流通しています。

ヤマアジサイ

紫のヤマアジサイガクアジサイと外見は似ていますが、装飾花の量も少なく、枝や葉も細く、全体に華奢な印象です。その名の通り山中に生えるので、日常生活であまり見ることはありません。ヤマアジサイ系の一部の品種には「アマチャ」という名称が入っていますが、若葉が甘茶の原料となります。ヤマアジサイ系の園芸品種も育種はされていますが、流通量は少なく、いけばなや茶花として使用される程度です。

タマアジサイ

タマアジサイ東日本の里山や山中、いたる所で見ることができます。蕾が玉のように丸いことからタマアジサイと呼ばれ、開花するとガクアジサイのような装飾花をつけます。アジサイの仲間ですが、開花期が梅雨ではなく真夏の暑い時期である点も見分けに役立ちます。7月〜8月に関東で山歩きをすると、高い頻度で見かけます。鑑賞価値があまり高くないのか、切り花で流通することはほぼありません。

ノリウツギ

ノリウツギノリウツギの花と装飾花を合わせた花序は縦長で30センチもの長さになります。装飾花の花色は白または淡いグリーンや淡いピンク。名称は樹皮が和紙の糊の原料となったことからつけられました。アジサイの仲間ですが、梅雨ではなく真夏に咲きます。夏の時期に切り花としての流通もあり、原種のノリウツギよりも装飾花を増やすよう品種改良した「ミナヅキ」が有名です。

海外のアジサイの仲間

セイヨウアジサイ

カラフルなセイヨウアジサイ
セイヨウアジサイを使ったアレンジメント

日本のホンアジサイが18世紀後半に欧州に渡り品種改良され、逆輸入されたアジサイの総称です。より大輪で色のバラエティに富み、切り花は輸入品として一年を通して空輸されています。鉢物は国内で多様に育種され、新品種が次々と産出されています。生花店ではセイヨウアジサイという呼び方はせず、英名の「ハイドランジア」の名で呼ばれるケースが多いです。

カシワバアジサイ

カシワバアジサイを使った活け込み
カシワバアジサイを使った活け込み

北米原産ですが、古くから日本に入って定着しています。普通のアジサイとは異なる切れ込みがある葉が特徴で、柏の葉に似ていることからその名がつきました。ノリウツギやピラミッドアジサイに似た縦長の花序をつけ、ボリュームがあるので、園芸品種や切り花として人気があり、公園などの植栽としてもよく使用されています。

セイヨウノリウツギ(=ピラミッドアジサイ)

セイヨウノリウツギを使った活け込み
セイヨウノリウツギを使った活け込み

日本原産のノリウツギが「ミナヅキ」に品種改良され、19世紀後半に欧州に渡り、さらに改良されて産出されたのがセイヨウノリウツギです。ピラミッドアジサイという別名の由来ともなった綺麗な円錐形の花序で、原種のノリウツギよりはだいぶ花付きが良くなっています。鉢物でも切り花でも流通しています。

アナベル

ハイドランジアアナベル北米原産のアメリカノリノキの変種で、ホンアジサイやセイヨウアジサイよりは小さな淡いグリーンの装飾花を密集させて咲かせます。鑑賞価値が高く、国内でも庭木として定着しつつあります。アジサイの仲間の中では非常に日持ちがよく、綺麗なドライフラワーにしやすい品種なので、切り花としても幅広く流通し、フラワーデザイナーにも人気が高い品種です。

アジサイによく似たガマズミ属の花々

アジサイ属にはたくさんの種類の花があることをご紹介しましたが、「アジサイに似た、アジサイではない花」もご紹介しておきます。

それは、ガマズミ属の花々です。植物学的にはアジサイ属とは全く遠縁の分類をされているのですが、装飾花をつけて花を密集させる姿はそっくりです。

私も街や山で見かけるとよく間違えそうになりますし、モノによってはほぼアジサイの見た目です。アジサイ好きなら区別できると良いですね。

ビバーナム・スノーボール

ビバーナムスノーボール

この名を聞いたことがある方が多いと思います。小さな玉のようなグリーンの花をつけ、春先から初夏まで出荷があり、生花店での流通量もだいぶ多いので、ファンが多い品種ですね。これをアジサイの一種だと思っている方が結構いらっしゃるのですが、ビバーナム・スノーボールは、ガマズミ属の一種の「ヨウシュカンボク」の園芸品種です。「Viburnum」は英語でガマズミの意味です。かつては水を吸いにくい花材だったのですが、生産者さんの努力で、日持ちが良くなってきています。

オオデマリ

オオデマリ

オオデマリも、庭木としてよく植えられている、アジサイによく似たポピュラーな樹種で、5月頃には生花店の店頭にも並びます。花の形がアジサイと混同されますがガマズミ属で、アジサイよりは早い4〜5月の開花時期、3メートルまで大きくなる樹高、枝垂れるような花のつき方で、慣れればすぐ見分けられます。また、花の姿はビバーナム・スノーボールとも似ていますが、はっきり異なるのは葉の形。ビバーナム・スノーボールは切れ込みのある掌状の葉で、オオデマリは丸い葉なので一目瞭然です。

ムシカリ

ムシカリ

日持ちのする春のいけばな花材として重宝されるムシカリ。別名ではオオカメノキとも呼ばれ、ポテトチップスのような凹凸のある葉が特徴の、ガマズミ属の樹種です。背の高い樹形や花のつき方がアジサイとは全く異なるので、アジサイと混同することは少ないと思いますが、ムシカリの花が装飾花をつけた姿は、まるでガクアジサイのような外見になります。

 

その他、ガマズミ(ヨツドメ)、ヤブデマリ、サンゴジュなど、アジサイと似たような花を咲かせるガマズミ属の花はたくさんあります。お散歩やトレッキングで見かける「装飾花をつけたアジサイっぽい花」は、ガマズミ属の花かもしれませんので、よく見てみてくださいね。

実は一年中入手できるアジサイ

アジサイが、梅雨に咲く印象が強すぎるせいか、「今の時期にはアジサイありませんよね?」と言う問い合わせをよくいただきます。時期によって入荷量の差はありますが、現在は年間を通じて輸入のアジサイが流通しています。

切り花のアジサイは年間を通じて入荷しています

近年、欧州でハイドランジア(セイヨウアジサイ)が盛んに品種改良され、空輸のロジスティクスも発達したことにより、最盛期の春〜夏に限らず年間を通じて切り花のハイドランジアを入手可能です。

輸入物のハイドランジアはバラエティに富んでいて素晴らしいのですが、物流コストが高く高価になってしまうことはもちろん、どうしても切ってから時間が経過してしまうので、国産のものに比べては日持ちが悪かったり、傷んでいるものがあったりする欠点があります。それでも、見たことのないような色のハイドランジアに出会えるのは輸入物の切り花ならではですね。

複色のセイヨウアジサイ
アンティーク系や、複色系など、さまざまなハイドランジアが輸入される

輸入物のハイドランジアがとても美しいので、最近は青山花茂でも輸入物のハイドランジアを使ったアレンジメントや花束をたくさん作っています。オンラインに掲載している品物をお選びいただいても良いですし、お電話でオーダーメイドでお作りすることもできますので、どうぞお問い合わせください。

グリーンのアジサイとバラのアレンジメントの画像
淡い紫のカーネーションとグリーンのハイドランジアのアレンジメント<クランデール>

複色のアジサイとカサブランカの花束の画像
大輪ユリ・カサブランカとグリーンのハイドランジアの花束<ルージュブラン>

国産の切り花のアジサイは、露地物(外で栽培しているもの)がほとんどで、最盛期の5月〜7月に出荷されます。茎の長いアジサイは輸入物にはないので、活けこみなどで使うアジサイは国産ものです。逆に言うと、5月〜7月以外の時期に生花店で見かける切り花のアジサイはほぼ全てが輸入物(ハイドランジア)と思って間違いありません。

アジサイの活け込みの様子
活け込みに使用される茎のながい国産アジサイ

鉢物のアジサイは、4月から6月ぐらいまでが最盛期

ご存知の通り、鉢物のハイドランジアは、母の日期間の前後に、さまざまな色や形の品種が販売されていますね。国内の生産者さんが盛んに品種改良を行ったり、新たな品種の株を輸入したりして、毎年、新品種がたくさんデビューしています。

色も形もさまざまですが、大きく分けると、手まり咲きのハイドランジアと、ガク咲きのハイドランジアに分かれます。青山花茂では、母の日に鉢物のハイドランジアを毎年販売しています。今年はガク咲きのハイドランジアの鉢植えをご用意しました。

「母の日といえばカーネーション」ではありますが、最近は例年カーネーションの鉢物と同じぐらいの数を販売しています。上手な方は、花が終わったあと、地植えにして翌年も咲かせている方もいらっしゃいます。園芸がお好きな方におすすめです。

アジサイカサノバミックスの鉢植えの画像
2色が同時に楽しめるハイドランジアの鉢植え<カサノバミックス>

アジサイシャイニーの鉢植えの画像
輝くような淡いブルーのハイドランジアの鉢植え<シャイニー>

アジサイの水揚げと楽しみ方

その可愛らしさから人気が高まっているアジサイですが、切り花のアジサイは、水あげが非常に難しく、30年くらい前までは特別なオーダーを除いて一般の生花店で扱うことはほとんどなかったと聞きます。かつて、青山花茂本店いけばな事業部では、塩やミョウバンを使い、「焼き切り」と言う手法で水揚げをしていたそうです。特別な水揚げ方法を施して、ようやくいけばな花材として提供できる貴重な花材だったわけです。

品種改良や水揚げ剤の発達を経て、アレンジメントや花束に使うことのできる花材となったアジサイ。今、青山花茂では以下のような手順で水揚げを行なっています。皆さまも切り花のアジサイを買ってきた際は、長持ちするように以下の水揚げ方法を参考にしてみてくださいね。

1.余分な葉っぱを整理する

アジサイの葉を取る様子

見た目に余分と思われる葉っぱを整理することで、蒸散の量を少なくし、無駄なカロリーを使うことを防ぎます。

また、葉っぱが水に浸かると腐敗の原因になることにも注意して、取り除いていきます。

2.茎を斜めに削ぐ

アジサイの茎を切る様子

斜めに削いで、表面積を増やすことで、水を吸いやすくします。

ナイフがない場合は、ハサミでできる限り斜めに切ります。

3.中のワタを取り出す

アジサイの綿を取る様子

茎の中のワタを取り出して、出来るだけ水が中に入っていくようにします。

ワタ取りに時間をかけると水を吸い上げにくくなるので、素早くすませるようにします。

4.水揚げ剤につけて、水に入れる

アジサイを水につける様子

かつてはミョウバンなどにつけていましたが、現在は酸性の水揚げ剤につけて、水に入れます。

水揚げ剤がない場合は、この手順はスキップしますが、深い水に入れて水圧を高めるだけでも水を吸いやすくなるので、「深水(ふかみず)」も試してみてください。

5.スプレーを花や葉にかけて蒸発を防ぐ

アジサイにスプレーをかける様子

特殊な薬剤が入ったスプレーを花や葉にかけます。専門用語では葉水(はみず)と言います。

水道水の入った霧吹きでも蒸散を防ぐ意味があります。

アジサイ以外の花は、霧吹きを好まない場合があるので注意が必要です。

数本を花瓶に挿して飾るのもおすすめです

花瓶に挿したアジサイ

アジサイの歴史や種類について、ご興味を持っていただけましたでしょうか。

ご紹介した通り、元々は日本原産の植物でしたが、ドイツ人医師シーボルトらによって欧州に持ち帰られたことで、よりバラエティに富んだ花色へと品種改良が進んでいきました。色鮮やかなアジサイは、鉢物だけでなく切り花の花材としても重宝されています。

他の花とは異なり、小さな装飾花の集合体でボリュームがあるので、数本だけ購入して花瓶に挿して飾るのもおすすめです。アジサイの爽やかな花姿、どうぞお楽しみください。

 

この記事を書いた人

青山花茂本店代表取締役社長北野雅史

株式会社青山花茂本店 代表取締役社長

北野雅史

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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