ユリ(百合)の種類や特徴、歴史など。カサブランカとオリエンタルユリの違いとは?

白いユリ

6月から8月にかけて、ドライブや山歩きに出かけると、ヤマユリ、オニユリ、テッポウユリなど、自生しているユリ科の植物に出会います。山の斜面に群生するヤマユリを見つけると、とても嬉しい気持ちになりますよね。

自然界では夏に花を咲かせるユリですが、生花店では年間を通じて多様なユリを見ることができます。それら品種改良されたユリは、元を辿ればほとんどが日本原産のユリにたどり着くことをご存知でしたか?

今回は、ユリにまつわる歴史や種類について紹介していきます。

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。

欧州に渡った日本固有のユリ

ユリは、はるか有史以前から、非常に長く世界中で親しまれてきました。キリスト教では聖母マリアの受胎告知をテーマにした多くの絵画で、ユリの花を捧げる天使の構図が描かれています。それらのユリは、欧州原産のマドンナリリーという品種ではないかと言われます。日本でも、弥生時代にはすでに球根が食用にもなっていたことがわかっており、観賞用としても、奈良時代頃にはすでに絵画に描かれ、万葉集にもユリが詠まれるなど、人々に愛されていました。

ユリの原種の分布を見ると、北半球の温帯地域を中心に、全体で100以上の原種が確認されていますが、アジア圏には実にその半数以上が分布しています。特に日本には15種類の原種が自生しており、中でもヤマユリ、カノコユリ、スカシユリなど日本固有種のユリが存在しています。

シーボルトらが球根を持ち帰った

これら日本固有の種が、その後のユリの品種改良の始祖となっていることは後段で詳しく紹介しますが、そのきっかけは江戸時代末期の1800年代中頃ドイツ人医師・シーボルトなどが植物を調査する過程でカノコユリやヤマユリなどの球根を日本から持ち帰ったこと言われます。

その後、すでに欧州で評価されていたテッポウユリを始め、ヤマユリ、カノコユリ、スカシユリなどの球根が人気を集め、生糸と並び日本の外貨獲得の手段となりました。世界中のユリの中でも、日本固有のユリが、花の大きさや、上や横を向く花の咲き方などの点で、際立って美しかったことが理由と推測されます。

シーボルトが描いたユリ
シーボルトの編纂した日本植物誌に描かれたカノコユリのスケッチ

出典:『日本植物誌 Flora Japonica』(京都大学理学研究科所蔵)
https://rmda.kulib.kyoto-u.ac.jp/item/rb00000001#?c=0&m=0&s=0&cv=0&r=0&xywh=-11035%2C-343%2C26165%2C6826(2022年8月31日閲覧)

日本の原種ユリ

日本の原種ユリ15種類あり、皆さんも野山で見たことのある品種も多いのではないでしょうか。それらの多くの品種が、その後の欧米でのユリの品種改良の始祖となっています。ユリの交配において大きな役割を果たした日本の原種のうち、青山花茂が販売することのある品種を取り上げます。

テッポウユリ

テッポウユリ日本固有種。5月〜7月に開花。
原種は奄美・沖縄諸島原産。鹿児島県沖永良部島は、今でもテッポウユリの球根の一大産地である。選抜育種によって作出された「長太郎ユリ」や、類似品種のタカサゴユリ(台湾原産)との交配種「シンテッポウユリ」などが、園芸品種として全国的に広がったのち、野生化している花を見ることができる。19世紀後半に「イースターリリー」として欧米で人気を得た。日本国内でも一年を通じて切り花として流通している。

 

ヤマユリ

ヤマユリ日本固有種。6月〜7月に開花。
直径25cmほどの大きな白い花と、黄色い線、グロテスクな赤い斑点で他のユリとは全く違う存在感を見せる。いけばな花材としてはポピュラーでファンも多く、時期になると取り扱いのある生花店も多い。山の斜面で咲き、北海道から九州まで全国的に見ることができる。ヤマユリよりもさらに大きな花びらをつける変種のサクユリ(別名タメトモユリ)は伊豆諸島・伊豆半島のみに自生する。

 

 

ヒメユリ

ヒメユリ日本および中国・朝鮮半島に分布。6月〜7月に開花。
直径10cmに満たない小さなオレンジ色の花を、一本の茎に4,5輪程度、上向きに咲かせる。いけばなで使用されることが多く、通常は生花店での扱いは少ない品種。切り花として流通するのは、大陸のみに分布する「チョウセンヒメユリ」であることが多い。同じオレンジ色で上向きに咲くワスレグサ科の「ノカンゾウ」や「ヤブカンゾウ」と混同しやすい。

 

 

スカシユリ

スカシユリ日本固有種。6月〜8月に開花。
花びらの根元部分に、隣の花びらと隙間ができることから「透かし」の名前がついた。原種のスカシユリは茎の丈が数十センチと、とても背の低いもので、そのまま切り花で流通することはない。「スカシユリ」として生花店で扱われるオレンジや黄色の花は、原種のスカシユリとエゾスカシユリなどを元に作出された“アジアンティック・ハイブリッド”という交配グループ。

 

 

ササユリ

ササユリ日本固有種。6月〜7月に開花。
透明感のある淡いピンクの小ぶりの花と華奢な草姿が可憐で愛されてきた。笹の葉のような葉をつけるのでササユリと呼ばれる。いけばなでは、類似品種のオトメユリなどと同様、初夏の山野の風情を表現する花材として重宝されてきた。しかし現在は、里山の減少や生産者の廃業などにより、流通量が激減し、入手困難な花材となっている。

 

 

コオニユリ

コオニユリ日本および中国・朝鮮半島に分布。7月〜8月に開花。
オレンジ色の花を下向きに咲かせ、反り返っておしべを露出させる。コオニユリは草原や湿原に生えるので、人里でよく見かけるのは、コオニユリよりは葉が多く少し花が大きい「オニユリ」(中国原産)と思われる。いずれも生花店で販売されることは少ないが、いけばなの展覧会など特別なシーンで使用される場合がある。

 

 

カノコユリ

カノコユリ四国・九州と、台湾・中国に分布。7月〜9月に開花。
コオニユリと同様、下向きに咲き、反り返っておしべを露出させる咲き方をする。花びらの斑点がピンク色で、鹿の子の模様のようだと名付けられた。シーボルトが持ち帰り、その後のユリの品種改良に大きな役割を果たした花の一つとして有名。生花店で販売されることはほぼないが、いけばなの展覧会など特別なシーンで使用される場合がある。

 

 

生花店で見られる“現代のユリ”を分類すると

ユリの育種・品種改良は、1900年代に入って欧米、特にオランダを中心に活発化していきました。その進化の過程に、シーボルトたちが持ち帰った日本の野生種が中心的な役割を果たし、現在、日本だけでなく世界の花業界で流通するユリには、元をたどれば必ずと言っていいほど日本原産のユリの遺伝子が含まれています。現在、生花店で並ぶユリを分類するには、まずはユリの園芸品種の成り立ちを知る必要があります。

ユリの園芸品種のグループ

原種の交配を経て作出されたユリの園芸品種うち、日本に馴染みの深い、主要な4つのグループがあります。それらの4つのグループから、美しく交配ができた3グループが続いて成立し、現在流通するユリの園芸品種の多くはこの7つに属します。(*マルタゴンハイブリッドなどの小グループは割愛)

ユリの分類表

生花店ではO・OT・LOはまとめて“オリエンタルユリ”

“オリエンタル・ハイブリッド”の「O」がつくグループは「O」「OT」「LO」の3グループありますが、生花店ではわざわざOTやLOなどと呼ばず、これら3グループに属する花を総称して「オリエンタルユリ」と呼ぶ場合が多いです。

また、「L」のグループである“ロンギフロラム・ハイブリッド”は、厳密には色々な品種がありますが、生花店ではそこに属するユリを全て、単純に「テッポウユリ」と呼びます。そして、「A」のグループであるアジアンティック・ハイブリッドは総称して「スカシユリ」と呼びますが、原種のスカシユリとは全く違う形です。「LA」のグループは「LAユリ」と呼ばれています。

ユリの分類表

年間を通じてユリはあるが、ユリの本来の季節は夏

上記で紹介した、交配を経て誕生した“現代のユリ”は、生産調整によりほぼ年間を通じて入手が可能なものとなりました。私たち生花店スタッフも、ユリが夏の花であることを忘れてしまいそうなほどですが、6月になると原種のヤマユリや、ササユリなどが入荷し、ユリが夏の花であることを再認識します。

“ピンクのカサブランカ”は存在しない

さて、オリエンタルユリを代表する品種といえば、何と言っても“カサブランカ”。大きな純白の花を、他のオリエンタルユリよりも少し横向き加減に咲かせる優美な姿をもち、強い芳香を持つことからも「ユリの女王」とも言われます。市場価値も他のオリエンタルユリの倍ぐらいの値段になる品物で、知名度も非常に高いです。

カサブランカ

「カサブランカ」が1980年代に登場した頃は他の大輪の白ユリ品種が少なかったこともあってか、「白いオリエンタルユリは全てカサブランカ」という誤解もしばしば聞きますが、「白いオリエンタルユリの中で最も高価なものがカサブランカ」という理解が正しいです。

また、“ピンクのカサブランカ”というお問い合わせもありますが、カサブランカの語源がスペイン語でカサ(家)・ブランカ(白い)である通り、カサブランカは白いものだけですのでどうぞご注意ください。

ユリの花粉がついてしまった…となる前に、注意点と対処法

ここまで、ユリの原種から現代のユリが成立するまでの過程をご紹介してきました。今では、長い育種の過程で選ばれてきた美しいユリを生花店で手軽に購入することができますね。

ユリを取り扱う上では、花粉の話を避けて通ることはできません。ユリをお部屋に飾った際、花粉が手や洋服について困った経験はありませんか。ユリの花粉には粘着性があり、花粉が洋服の繊維に入り込んでしまうと、洗濯してもなかなか取れません。

さらに、服が汚れてしまうだけでなく、花粉がめしべについて受粉してしまうと、花の劣化が進み、持ちが悪くなってしまうというデメリットもあります。

生花店では、既に開いているユリのおしべは必ず取るようにしていますが、蕾の状態のユリはおしべを取ることができません。蕾の中には花粉のついたおしべが残っているため、ご自宅で蕾が開いた際は花粉がついたおしべを取るようにしてください。

ユリのおしべを取る方法

1. 蕾が開くのを待つ

ユリ

蕾が少し開いたら、オレンジ色のおしべが見えてきます。開いた直後では、まだ花粉が露出してきていません。

2. おしべを取る

ユリの花粉を取る様子

おしべは引っ張ると簡単に取れます。
手が汚れないように、ピンセットや手袋などで行ってください。

3. タイミングに注意

ユリの花粉

開いて半日もすると、すぐに花粉が吹いてしまいます。
なるべく早めに処理するようにしましょう。

 

 

ユリの花粉について、動画でも詳しく説明していますので、ぜひご覧ください。

ユリを使ったフラワーギフトをご紹介

高貴なイメージの存在感を放つユリ。「立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花」という言葉にあるように、ユリの上品で凛とした美しさが理想の女性を表していることから、プロポーズや記念日に贈る花としても大変人気があります。 大切な方への贈り物に、青山花茂の上質なユリのフラワーギフトをお贈りください。

「ユリの女王」とも称される、カサブランカのみでお作りした純白の花束

カサブランカの花束
カサブランカの花束

白い大輪ユリ・カサブランカの高貴な花姿と豊かな香りがとても魅力的。「祝福」の花言葉の、抱えるほどの大きさの豪華な花束を、大切な日を彩る贈り物にお選びください。

大輪ユリ・カサブランカが自然な花向きで咲き誇るデザインのアレンジメント

カサブランカのアレンジメント
アレンジメント<レティチェーロ>

光り輝くような大輪のカサブランカを引き立てるように、淡いピンクのトルコキキョウやグリーンのリーフを巧みに配置したデザインです。お喜びやお祝いの贈り物におすすめです。

ピンクの色調の花々が華やかなロングスタイルの花束

ピンクのユリとバラの花束
花束<ラディアンテ>

淡いピンクの大輪バラ、白いスプレーバラとピンクのユリやトルコキキョウなど。本物の花だけがもつデリケートな美しさとフレッシュなユリの香りに満たされます。

クールなインテリアに合う、スタイリッシュなフロアスタイルのアレンジメント

テッポウユリとアンスリウムのアレンジメント
床置きアレンジメント<シエル>

大輪の白い八重咲きユリやライムグリーンのアンスリウムに、高さのあるテッポウユリやリーフを合わせ、爽やかな白グリーンの色合いに仕上げました。

こちらでご紹介した品物以外にも、ユリを用いたフラワーギフトをご用意しています。

ユリを使ったフラワーギフト一覧へ

ユリの華やかな花姿をお楽しみください

奥深いユリの歴史や種類について、ご興味を持っていただけましたでしょうか。

ハウス栽培などで一年を通して入手が可能になりましたが、ユリの花の本来の季節は夏。どうぞユリのストーリーに思いを馳せて、その華やかな花姿をお楽しみください。

 

この記事を書いた人

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株式会社青山花茂本店 代表取締役社長

北野雅史

1983年生まれ。港区立青南小学校、慶應義塾中等部、慶應義塾高等学校、慶應義塾大学経済学部経済学科卒業。幼少期より「花屋の息子」として花への愛情と知識を育む。2006年〜2014年まで戦略コンサルティングファーム A.T. カーニーに在籍。2014年、青山花茂本店に入社し、2019年より現職 (青山花茂本店 五代目)。
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